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語学力ゼロで戦時下の国境を越えた私が、「それでも英語だけはやっておけ」と言う理由

コラム
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世界一周、あるいは海外ボランティア。そういった煌びやかな響きには、必ずと言っていいほどこの質問がついて回ります。

「語学力はどれくらい必要ですか?」

結論から言いましょう。私は、外国語が一切喋れません。英語は中学生で習った「This is a pen」レベル。ロシア語に至っては「スパシーバ(ありがとう)」しか知りません。スペイン語? 「オラ(こんにちは)」で全てを解決しようとしていました。

そんな人間が、ロシア、ウクライナ、そして中南米を一年間放浪し、五体満足で帰ってきました。なので、「言葉が喋れなくても海外に行けますか?」という問いに対する答えは、「行けるし、なんとかなる」です。現代にはGoogle翻訳とDeepLという神のツールがあります。スマホさえあれば、意思疎通は可能です。

ですが、その上で私は、これから渡航を考えている(特に情勢の不安定な地域へ行く)皆様に、声を大にして言いたい。「悪いことは言わないから、英語だけは覚えておけ」と。

今回は、語学力ゼロの私が現場で痛感した、「スマホ翻訳の限界」と「英語という生存ツール」についてお話しします。

Google翻訳は「平時」の道具である

確かに、翻訳アプリは優秀です。カフェでコーヒーを頼む時や、ホテルのチェックインをする時なら、スマホの画面を見せるだけで事足ります。しかし、私がいたのはロシアやウクライナ、そして中南米の治安が不安定地域でした。

想像してみてください。検問で銃を持った兵士に囲まれた時。あるいは、スラム街で強盗紛いの連中に絡まれた時。

「ちょっと待って、今アプリを起動するから」

そんな悠長な動作が許されるでしょうか。

ポケットからスマホを取り出すという行為自体が、「武器を取り出そうとしている」と誤解され、発砲されるリスクがあります。あるいは、通信状況が悪い場所で、頼みの綱の翻訳アプリが「オフラインです」と表示された時の絶望感。そもそも、スマホ自体が盗まれてしまう可能性もある。そうなってしまったら、私はただの「言葉の通じない怪しい東洋人」に成り下がります。

スマホという生命維持装置を失った瞬間、自分の口から出る言葉だけが、身を守る唯一の武器になります。その時、中1レベルの英単語だけでも知っているかどうかが、文字通り生死を分けるのです。

「共通言語」としての英語の強さ

「ロシアやウクライナ、中南米なら、そもそも英語を使わないだろ?」

そう思う方もいるかもしれません。確かに、現地の一般市民には通じないことも多いです。

しかし、私が関わっていた「支援活動」の現場では話が別です。国際的なボランティア現場では、共通言語は絶対に英語です。フランス人も、ドイツ人も、現地のウクライナ人スタッフも、業務連絡は英語で行います。私はここで、悲しいほどに孤立しました。ミーティングの内容が分からない。指示が聞き取れない。簡単な作業ならジェスチャーで何とかなりますが、緊急時の複雑な連携など不可能です。

また、トラブルが起きた時、話を通すべき「上の人間」や「知識層」は、どの国でも大抵英語が喋れます。現地の言葉を覚えるのがベストですが、それはハードルが高い。ならば、世界中で最も汎用性の高い「スペアキー」である英語を持っておくのが、リスク管理として最適解なのです。

綺麗な文法なんていらない

私が言う「英語を覚えておけ」というのは、TOEICで高得点を取れとか、流暢な発音で喋れということではありません。必要なのは「生存のための英語(サバイバル・イングリッシュ)」です。

  • I am Japanese.(私は日本人だ)
  • I am Volunteer.(私はボランティアだ)
  • Help me.(助けてくれ)

笑ってしまうほど単純ですが、これを相手の目を見て、自分の口ではっきりと言えるかどうか。私はポーランドからウクライナに入国しましたが、直前までロシアに滞在していたため、二時間ほど尋問を受けました。その際、スマホやパスポート、持ち物をすべて取り上げられそうになりました。その時、必死で「アイアムドクターボランティア! チェックペーパー! チェックペーパー!(俺は医者の手伝いだ! 書類を確認してくれ!)」と叫びました。文法も発音もめちゃくちゃですが、それで意思は通じました。

Google翻訳越しの機械的な音声は、情報は伝えますが「感情」や「必死さ」は伝えてくれません。極限状態において、相手の人間性を揺さぶるのは、やはり生身の人間の声なのです。

無免許運転はやめよう

語学力ゼロで戦地や危険地帯に行くのは、無免許で高速道路を走るようなものです。運が良ければ目的地に着けます。私も着けました。ですが、事故が起きた時の対処法がありません。

これから旅に出る方へ。ロシア語やスペイン語まで覚えろとは言いません。私だって覚えようとすらしていません。ですが、せめて中学レベルの英語だけは、スマホなしで口から出るようにしておいてください。それは「コミュニケーションを楽しむため」ではなく、「生きて帰るため」の保険です。

……まあ、そう偉そうに語る私が今、英語の勉強をしているかと言えば、全くしていないのですが。日本にいれば日本語が通じますからね。平和万歳。

この記事を書いた人
森元仁隆
森元仁隆

元新聞記者。現場で培った取材力と表現力を基に、読者に価値ある実践的な知見を提供します。